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簡単においしい和食を作るために:だしの基本

琥珀色に澄んだだし

「ちゃんとした和食を、簡単に、そして美味しくつくりたい。」

そう考えたことはありますか?

そんな方に、おすすめの方法が一つあります。

それは、まず「だし」をひくことです。

「だしって、なんだか難しいものだよね。」そう思っている方もいるかもしれません。

でも、日本のだしは世界的に見ても簡単で、かつ、さまざまな料理に使える、優れものなのです。

今回は、日本料理の「だし」とは何か、そしてその役割、だしに使う食材についてお伝えします。

だしって何でしょうか?

それは、「うまみ」の成分をたくさん持っている食材を煮だすことなどによって、そのうまみを取り出してつくったスープのことです。うまみは日本人が見つけて大切にしてきたもので、「うまみ」という言葉は「Umami」として、いまや世界の共通語ともなっています。

また、だしは「ひく」と表現しますが、これは食材のおいしさだけを引きだすことを表しています。

人間の舌で感じることのできる味は五つあり、これを「五味」といいます。「甘味」、「塩味」、「酸味」、「苦味」、そして「うま味」、の五つです。

うま味は、それ以外の四つの味に比べて、表現しにくい味ではあります。また、おいしいという意味の「うまい」と成分としての「うま味」とを混同して理解していることも多いように感じます。

私が食育の講義で、うま味を子どもたちに教えるときに行う方法があります。まず、小さく切った昆布を口に含んでから目をつぶってもらいます。昆布を口に含んだまま、静かに唾を飲みこみます。すると、舌の上に残っている味を感じます。「この、舌の上に感じる味がうま味なんだよ。」という説明をしています。

皆さんも、もしよかったら今度やってみてください。うま味を感じられると思います。

美味しくだしを使うと、調味料が多少、少なくても多くても、味が決まります。つまり、調味料の許容範囲が広くなるのです。調味料が少なくても美味しく感じるということは、減塩の料理も美味しく感じることができるということです。そのため、病院食などの観点でも、うまみに注目が高まっています。

だしの役割がどのようなことかを体験できる実験があります。だしではなく、水で煮物を作ってみることです。

水で煮物を作ると、醤油、酒、みりんなどの調味料を入れたときに、それぞれの調味料の味が立ってしまって味がバラバラになります。だしで煮物を作ると、いくつかの調味料の味が全て調和されます。だしにはそういった効果があるのですす。

だしには、味の土台となる役割があります。建物でも、基礎である土台がしっかりしていると、上に乗せる建物(料理の場合は食材や調味料など)を高く積み上げても安定しますが、土台がしっかりしていないと簡単に崩れてしまいます。それが土台であるだしの大切さです。

だしをしっかりとすることで、料理は美味しくなるし、それぞれの調味料の量に神経を使いすぎることもないので、料理が楽になります。ですから、料理人たちはみな、だしが大切だと言うのです。

皆さんの中には、「だしをひくのって、なんだかちょっと大変なんじゃない?」と思っている方も多いのではないでしょうか。

じつは、日本料理のだしは「世界で最も早く作れるだし」なのです。例えば中華やフレンチなどの料理は、フォンドボーなど、8時間ほどもかけて骨の髄からうまみを煮出していくものもあります。一方で、近茶流のだしのは15分ほどでできてしまいます。ただ、だしのひき方は料理人の数だけ方法があると言われており、色々な方が方あります。

次にだしの食材についてお話しします。

昆布、鰹節、煮干し、干し椎茸、精進料理だったら干瓢や大豆、または肉だと鶏肉などが日本料理で使う、だしの食材です。

この中で最も重要なものは昆布です。だしをひくには、複数の食材を組み合わせてつくります。昆布と鰹節であったり、昆布と煮干し、昆布と干し椎茸というように、昆布をベースにして組み合わせることが多いです。

昆布は、グルタミン酸という、うま味を持つアミノ酸が多く含まれています。昆布だけではなく多くの肉や野菜に含まれていますが、日本の食材以外でもトマトやチーズなどにも含まれていて、うまみ成分の最も基本的なものです。グルタミン酸に対して組み合わせるものは、動物質のものです。これは、おもにイノシン酸などの核酸物質といわれるうま味成分で、動物質である鰹節や煮干しなどに多く含まれています。

昆布と鰹節
日高昆布と鰹節

この二つの食材を組み合わせると「相乗効果」がおきます。だしにおける相乗効果とは何でしょうか。だしの場合、昆布のうまみが1、そして鰹節のうまみが1だとすると、普通に考えると1+1で2になりますね。しかし、昆布と鰹節のうまみの組み合わせには相乗効果が生まれ、足し合わせると、なんと8にもなると言われています。普通より4倍ほど多くうまみを感じられるわけです。

この相乗効果を発揮する食材の主な組み合わせが昆布と鰹節です。これはだしに限らず、他の料理の食材についても言えることです。特定の食材どうしを組み合わせると、さらに美味しさが増すという組み合わせが存在するのです。

私たち料理人は、その組み合わせを常に探しています。そして、まだ見つけられていない組み合わせはたくさん存在していると私は思います。ですので、皆さんもぜひそのような食材の組み合わせを探してみてください。

次の記事では、だしのひき方についてお伝えします。

著者

近茶流宗家 柳原料理教室 主宰
博士(醸造学)

東京・赤坂の柳原料理教室で、日本料理、茶懐石の研究指導にあたっている。

NHK大河ドラマなどのテレビ番組の料理監修、時代考証も数々手がける。 2015年文化庁文化交流使、2018年農林水産省日本食普及の親善大使に任命され、世界へ日本料理を広める活動を行う。

ライフワークは江戸時代の食文化の研究と日本料理・日本文化の継承、そして子ども向けの和食料理本の執筆・講義を通した子どもへの食育。