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日本で愛される「香る魚」鮎:その魅力と味わい方

鮎は好きですか?

鮎は日本固有の魚で、神話にも出てくるほど古くから日本で愛されてきました。日本各地で獲れ、夏に楽しめる川魚です。とくに、炭火で焼いた鮎は香ばしく、燻された風味はなんとも言えない美味しさです。

6月の解禁から秋の子持ち鮎の頃まで食べることができます。

今回は日本料理の旬の味、鮎のお話です。

鮎の別称はいろいろありますが、その一つは「香魚」です。

まず、鮎の香りを嗅いでみてください。

きゅうりのような、スイカのような、ウリ科の香りがします。そのため、香る魚、「香魚」と呼ばれています。鮎はある程度成長すると、川の石や岩につく珪藻類というコケを食べます。コケのみを食べるため、体からコケのような良い香りがして、さらに内蔵もおいしく食べられるのです。

鮎については「川によって魚の味は違う」とよく言われます。釣り人たちが集まると、地元の鮎のお味自慢が始まります。ちなみに私は、父がよく静岡県狩野川に鮎釣りに連れて行ってくれたので、狩野川の鮎の味が好きです。

もう一つの鮎の別名は、「年魚」です。

鮎は1年のみ生きる魚です。「春生まれ、夏に長じ、秋衰えて、冬死す。」

故に年魚といいます。そういった儚さも日本人の感性に合っているのかもしれません。

鮎の分類はサケマス科です。鮭やマスの仲間でもあるので、稚魚の鮎は海に出ることもできます。ただ、鮭などとは異なり、大海原へ出ることはありません。春先に川で孵化した鮎の稚魚は、海に下り河口付近をぐるぐると回って、ある程度成長すると、再び川へ登って成長します。

多くの川では6月前後に釣りが解禁となり、鮎のシーズンが始まります。川で10メートルほどの長い竿で釣りをしてる人は、鮎釣りをしていることが多いです。

鮎の釣り方は「友釣り」といって、鮎で鮎を釣る、世界でも類を見ない釣り方です。

鮎は岩についた珪藻類しか食べませんが、餌であるコケを釣針につけて釣るわけにはいきません。そこで鮎の習性を使って考え出されたのが友釣りという釣り方です。鮎はコケがついた岩の周りをそれぞれ自分の縄張りとしています。縄張りに他の鮎が入ってくると、すぐに追い出そうとします。この縄張り意識を利用するのです。

釣り人は釣り場に行くと、まず養殖のおとり鮎を買います。そのおとり鮎が逃げないように鼻環をつけ、尻びれの後ろに針をつけて川に流します。おとり鮎が、川に生息している鮎の縄張りに入りこむと、この川の鮎は入ってきたおとり鮎を追い出そうとして体当たりをしてきます。すると、おとり鮎の尾についている針に川の鮎が引っかかって釣れるのです。これが友釣りという釣り方です。

一尾目の鮎が釣れたら、釣った鮎はその川のことをよく知っていて体力もあるので、次は釣れた鮎に鼻環をつけて川へ放します。次の鮎がさらに釣れやすくなります。そのため、友釣りは最初の一尾目を釣ることが重要です。

私が鮎釣りを始めたばかりの頃は全く釣れず、最初に自分で買った3匹のおとり鮎だけをそのまま持って帰る時代もありました。他の釣りのように、釣れなかったら持って帰るものが何も無いのではないのが、鮎釣りのいいところかもしれません(笑)。鮎釣りを学んだおかげで、小豆島に住んでいた頃に、徳島や高知の清流で地元の方たちと釣りをして親しくなることができました。私の鮎釣りの良い思い出です。

鮎を美味しく食べるのは、塩焼きがやはり一番じゃないでしょうか?

鮎は「登り串」といって、川を登っているかのような、尾がピンと上がった形に串を打ちます。

串を打ったら「化粧塩」をします。鮎に塩でお化粧をしてあげるのです。背ビレ、尾ビレ、尻ビレ、胸ヒレは、そのまま焼くと直火に当たって焼け落ち、黒くなってしまいます。化粧塩には味つけのほかに、ヒレが焼け落ちるのを防いで形よく焼く、という目的のために欠かせないテクニックでもあります。

赤坂にある私の料理教室でも、基礎のクラスで鮎の授業をします。教室の前ににテントを張り、そこで炭火を起こして、串を打った鮎を焼きます。炭火で焼くことによって、焼き方の基本を学ぶことができるので、最初に炭火での焼き方をします。焼けた鮎の脂が下に落ちると、炭から立ち上った煙で鮎が燻されて、さらに美味しい風味となります。

皆で炭火で鮎を燻して、焼きたてのアツアツを食べるのは楽しいものです。私が最も好きな授業の一つです。

著者

近茶流宗家 柳原料理教室 主宰
博士(醸造学)

東京・赤坂の柳原料理教室で、日本料理、茶懐石の研究指導にあたっている。

NHK大河ドラマなどのテレビ番組の料理監修、時代考証も数々手がける。 2015年文化庁文化交流使、2018年農林水産省日本食普及の親善大使に任命され、世界へ日本料理を広める活動を行う。

ライフワークは江戸時代の食文化の研究と日本料理・日本文化の継承、そして子ども向けの和食料理本の執筆・講義を通した子どもへの食育。