どびんむし【土瓶蒸し】

「土瓶蒸し」は秋を代表する料理のひとつです。その始まりは、山で仕事をする人々が土瓶を携えて山に入り、水や酒を入れて持ち歩いていたことに由来するといわれています。山で採れたきのこなどをその酒の中に入れ、土瓶ごと火にかけて食べたものが始まりで、それを後に茶人たちが、現在のような風情ある料理へと仕立てていったとされています。

土瓶蒸しといえば、やはり松茸。松茸はお椀のお吸い物でも楽しめますが、土瓶という器を使うことで、またひと味違った香りと美味しさが生まれます。土瓶の中に出汁を張り、松茸とともに鶏肉や海老、銀杏などを入れ、酒を加えて火にかけます。土瓶の中に香りが閉じ込められることで、蓋付きのお椀とはまた違う、豊かな香りを楽しむことができます。

「土瓶蒸し」という名前から、土瓶ごと蒸して作ると思われることもありますが、私は土瓶を直接火にかけます。そうすることで、酒や松茸の香りが立ち、その香りを土瓶の中に閉じ込めることができます。

ここで土瓶蒸しの美味しいいただき方について。

土瓶の蓋の上には被せるように小さなお猪口がついています。まずそのお猪口に汁を注ぎ、お酒をいただくように少しずつ汁を味わいます。そして土瓶の中の具をつまみながら、またお猪口で汁をいただく。こうした食べ方もお椀でいただくお吸い物とは異なる趣です。カボスなどを添えておいて、その果汁を絞りながら味を変えて楽しむのもいいですね。

松茸と合わせる具材によって、味わいが変わるのも土瓶蒸しの楽しみです。鱧や鶏肉、穴子などを松茸と一緒に入れれば、それぞれに異なる美味しさを楽しむことができます。

松茸の香りと温かな出汁をゆっくりと味わう土瓶蒸し。ぜひ秋の夜長に、お酒とともに楽しんでみてください。

著者

近茶流宗家 柳原料理教室 主宰
博士(醸造学)

東京・赤坂の柳原料理教室で、日本料理、茶懐石の研究指導にあたっている。

NHK大河ドラマなどのテレビ番組の料理監修、時代考証も数々手がける。 2015年文化庁文化交流使、2018年農林水産省日本食普及の親善大使に任命され、世界へ日本料理を広める活動を行う。

ライフワークは江戸時代の食文化の研究と日本料理・日本文化の継承、そして子ども向けの和食料理本の執筆・講義を通した子どもへの食育。

近茶流 柳原料理教室ホームページ
https://www.yanagihara.co.jp