「ラーメンは和食ですか?」と聞かれたら、なんと答えますか?
和食って、どんな料理のことをいうのだろう、とあらためて考え込んでしまうかもしれません。
じつは、日本国内で和食の定義について議論のが盛んになったことがありました。今回は、その時のことについて書きます。あらためて、和食とは何か考えるきっかけになるかもしれません。
和食についての議論が始まったきっかけ
カレーライスやラーメンは日本料理に入るのか?と話し合われ始めたのは、2013年に和食をユネスコの無形文化遺産に申請することがきっかけでした。
形を持たず、消費されてしまう料理が、食文化として明文化されることは、国内で今までほとんどありませんでした。しかし、ユネスコ無形文化遺産に和食を申請するときに、和食とは何であるかの定義を決める必要が生まれました。そのとき、どこからどこまでが和食なのだろうという話し合いが行われたのです。例えば、懐石料理は和食だけれど、日常的に多く日本人に食べられているカレーライスは?ラーメンは?という話になっていきました。
カレーライスとラーメンの由来
カレーライスやラーメンは、私たちが考える「和食」よりも、もしかしたら日々の生活の中で食べられることが多いかもしれません。私も、日本料理を教えているから、常にいわゆる「日本料理」しか食べていないと思われていますが、実際にはカレーライスもラーメンも食べます。
カレーライスは明治の頃から日本で食べられるようになりました。カレーはインドの料理ですが、日本のカレーライスはインドから直接入ってきたものではなく、日本海軍がイギリス海軍に習って作り始めたのが始まりです。日本のご飯とカレーの相性がとても良かったことが、日本に定着した理由の一つです。今では日常的に食べる料理として、すっかりお馴染みの存在です。

ラーメンは中国から日本に入ってきたので、最初は「支那そば」と呼ばれてました。今はラーメンとして私たちの生活にしっかりと根付いています。
和食の定義が決まった
結局、その議論がどのような結末を迎えたかというと、カレーライスもラーメンも、和食に含まれることにはなりませんでした。
含まれなかった理由は、議論のなかで定めた和食の定義が「昭和30年代の家庭で食べられていた料理」となったからです。昭和30年代当時はカレーライスやラーメンは基本的には外食で食べるもので、家庭で食べるものではありませんでした。そのため、2013年の議論ではカレーライスとラーメンは和食として認められませんでした。
しかし、天ぷらやすき焼きはどうでしょうか。天ぷらも、すき焼きも、ラーメンなどと同じように、外国から日本に入ってきた料理であり、時間をかけて日本で定着し、今では堂々と日本料理となっています。これらの料理もそれほど長い歴史を持っている料理ではないのです。それが今では日本料理の定番のようになっているのだから、カレーライスだってラーメンだって、あと何十年後かはどうなっているかわかりませんね。
海外の人は、ラーメンは日本食だと思っていますし、餃子もイギリスの辞書には日本料理と書いてあります。ラーメンもカレーライスも、国内では今はまだ、正式に和食とは認められていないけれど、今後、和食になりうるポテンシャルを持っている料理なのです。
和食とは?
最後に、「どういうものを和食というのですか?」という冒頭の問いに対して、私がどのように答えるか書いておきたいと思います。例外もあるので、一言で言うことは難しいですが、私は「日本料理は水と醸造調味料の文化です。」と答えます。水の豊かな日本では、水の味が生きる料理が育まれてきました。だしをひくときも、水の味がその料理の味にもなるので、水が大切です。日本料理には、霜ふる、茹でる、煮る、と水が豊富にある日本だからこそ、生まれてきた調理法もたくさんあります。
そして醤油、味噌、みりん、酒、酢は全て発酵によって作られる調味料です。これらの調味料を使い味を組み立てるのが和食なのです。