茶碗蒸しのおいしさの秘密

寒い日が続くと、温かい茶碗蒸しが美味しく感じられます。今では身近な料理ですが、少し前まで「ご馳走」でした。

そのおいしさのポイントは実はとてもシンプルで、だしと蒸し加減にあります。

おいしく作るためのコツさえわかれば、家庭でも失敗せずに得意料理になると思います。

今回は日本料理を代表する一品でもある、茶碗蒸しについてのお話をしましょう。

茶碗蒸しって実は「お吸い物」?

ぷるんとなめらかな口当たりの中に、じんわりと広がるだしの味。この不思議な魅力が茶碗蒸しならではですよね。

卵を使う茶碗蒸しは、かつては特別な日のご馳走でした。江戸時代は卵そのものがとても高価で、1個の値段は今の感覚で400円ほどもしていました。卵をたっぷり使う茶碗蒸しはとても贅沢な一品だったのです。1950年以後、鶏卵生産の技術革新によって生産効率が上がっていき卵は手に入りやすい食材になりました。そして今では、茶碗蒸しは多くの日本人に愛されています。

料理の分類としては、実は茶碗蒸しは「お吸い物」の仲間です。だからこそ、だしの味がとても大切になります。茶碗蒸しを作るときはぜひ、ひきたてのだしを使ってみてください。卵によって閉じ込められただしの香りは驚くほど豊かに感じられます。だしを使う時に注意するポイントは、ひきたてのだしに卵を混ぜないことです。ひきたてのだしは熱く、ここに卵を混ぜると固まってしまうので必ず人肌の温度まで冷ましてから使うことを気をつけてください。

茶碗蒸しの失敗例

茶碗蒸しを作るときによくある失敗の例が「すが入ってしまう」ことです。「す」は漢字で「鬆」と書き、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)という言葉の中に入っている字です。小さい泡のような穴のことを意味します。これが入ると食感が滑らかでなくボソボソと硬くなってしまいます。

原因は、蒸し器の中の温度が100度以上になってしまうことにあります。100度以上になると卵液が沸騰しようとすることでできる気泡が、固まる際に閉じ込められてしまうからです。

「す」が入らないための蒸し加減

蒸すときの理想の温度は80〜90度。この温度帯を保つことでちょうど良い、なめらかな仕上がりになります。

私の料理教室でもお教えしているのですが、プロの現場では茶碗蒸しを作るときに「切り蓋」をします。切り蓋とは蒸し器の蓋にあえて隙間を作って蒸すことです。やり方は、家庭では蒸し器の蓋に箸を2本挟み、上から布巾をかぶせます。蒸気をほどよく逃がし、温度が上がり過ぎるのを防ぎます。水滴が落ちるのも防げます。

また、切り蓋にしても、火加減が強過ぎると失敗します。中の温度が重要なのですが、そう言われても感覚では分かりにくいですよね。ここで頼りになるのが湯気の様子です。シューッと勢いよく出る湯気は火が強すぎて、蒸し器の中の温度が上がりすぎていることを表しています。ちょうど良い温度のサインは、温泉のように「ふわーん」と立ち昇る湯気です。この湯気の様子をよく見て参考にしてみてください。心配な場合は、最初は温度計で80〜90度を確認するのもおすすめです。

最近ではガスだけでなくIHが導入されているキッチンがありますが、茶碗蒸しを作る時には火加減を一定に保つことのできるIHも実は適しています。

茶碗蒸しは、日本人のソウルフード

私はブラジルで現地の日系の方々に茶碗蒸しの作り方をお教えしたことがあります。その方々ができたての茶碗蒸しを口にされた瞬間の表情を今でも忘れることができません。「懐かしい味ですね。」そう、しみじみと言ってもらえてとても喜ばれました。茶碗蒸しはやはり、日本人の心に深く根付いたソウルフードなのだと感じました。

家庭でも少しだけポイントを押さえれば、驚くほど味よく、そしてきれいに仕上がります。

ぜひ、だしと蒸し加減を意識しながら、なめらかな茶碗蒸し作りに挑戦してみてください。

著者

近茶流宗家 柳原料理教室 主宰
博士(醸造学)

東京・赤坂の柳原料理教室で、日本料理、茶懐石の研究指導にあたっている。

NHK大河ドラマなどのテレビ番組の料理監修、時代考証も数々手がける。 2015年文化庁文化交流使、2018年農林水産省日本食普及の親善大使に任命され、世界へ日本料理を広める活動を行う。

ライフワークは江戸時代の食文化の研究と日本料理・日本文化の継承、そして子ども向けの和食料理本の執筆・講義を通した子どもへの食育。

近茶流 柳原料理教室ホームページ
https://www.yanagihara.co.jp